「足首をひねった」
「手をついたときに手首を痛めた」
このように、日常生活の中で「捻挫(ねんざ)」を経験された方は少なくないでしょう。
とくにご高齢になると、若い頃に比べて筋力やバランス感覚が変化し、思わぬところで捻挫をしてしまうことがあります。
捻挫とはどのようなケガなのか、ご高齢の皆様が捻挫と上手に付き合い、健やかな生活を送るための情報をお伝えします。
捻挫(ねんざ)とは?
捻挫は、関節を支えている「靭帯」や「腱(けん)」、関節を滑らかに動かすための「軟骨(なんこつ)」などが、許容範囲を超えて強くねじられたり、引き伸ばされたりすることで傷ついてしまうケガのことです。
靭帯は骨と骨とをつなぎ、関節がグラグラしないように安定させる役割を持つ強靭なひも状の組織であり、この靭帯が伸びたり、部分的にあるいは完全に切れたりすることを一般に「捻挫」または「靭帯損傷」と言います。
多くの場合、捻挫は骨折とは異なり、レントゲン(X線)検査では骨に異常が見られません。
「レントゲンで異常なし=大丈夫」と自己判断してしまうケースがありますが、実際には目に見えない靭帯などが傷ついている可能性があります。
捻挫は体のさまざまな関節で起こり得ますが、とくに多いのは足首(足関節)です。段差を踏み外したり、階段でバランスを崩したり、坂道で足をとられたりした際に、足首を内側または外側に強くひねることで発生します。
とくに、足の裏が内側を向くようにひねる「内反捻挫(ないはんねんざ)」が頻繁に見られます。
「つき指」も捻挫の一種であり、指の関節に無理な力が加わることで起こります。さらに、膝(ひざ関節)はスポーツ中だけでなく、転倒やひねり動作で膝の靭帯(前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯、外側側副靭帯など)を損傷することがあり、放置すると将来的に変形性膝関節症のリスクを高めることがあるため注意が必要です。
肩関節や肘関節も、転倒やスポーツなどで無理な力が加わった場合に捻挫することがあります。
捻挫の症状 – 痛み、腫れ、動かしにくさ
捻挫の主な症状は
- 痛み
- 腫(は)れ
- 関節の動かしにくさ
これらの程度は損傷の度合いによって異なります。痛みは、ケガをした直後から強く感じることが多いものの、靭帯の種類や損傷の程度によっては、最初はそれほど強くないこともあります。
腫れについては、ケガをした部分が内出血によって紫色に腫れてきます。腫れは、ケガの直後から数時間かけて徐々に現れることもあり、熱っぽさ(熱感)を伴うことも少なくありません。
そして、痛みや腫れのために、関節を普段通りに動かせなくなる可動域制限が生じます。靭帯がひどく損傷している場合は、関節がグラグラと不安定になることもあります。
捻挫は、靭帯の損傷の程度によって、大きく3段階に分けられます。
最も軽症なのは1度で、靭帯が一時的に伸びた状態を指し、微細な断裂はあるものの、靭帯の連続性は保たれています。痛みや腫れは比較的軽く、関節の不安定性はほとんどありません。
次に2度(中等症)は、靭帯が部分的に断裂した状態です。痛みや腫れは明らかで、内出血を伴うことも多く、関節を動かすと強い痛みがあり、多少の不安定性が見られることがあります。
最も重症なのは3度で、靭帯が完全に断裂した状態を指します。この段階では、強い痛みと著しい腫れ、広範囲な内出血が見られ、関節は明らかに不安定になり、体重をかけることが困難になります。場合によっては、手術が必要になることもあります。
とくにご高齢の方の場合、痛みの感じ方が若い頃と異なることや、他の持病の影響で症状を自覚しにくいことがあります。
「たいしたことはないだろう」
「そのうち治るだろう」
と自己判断してしまうと、適切な治療の機会を逃し、症状が悪化したり、後遺症が残ったりする可能性があります。
少しでも「おかしいな」と感じたら、早めに整形外科を受診することが大切です。
捻挫が起こる原因と、放っておくことのリスク
日常生活の中で注意すべき原因は以下のようなものです。
- 室内外のわずかな段差
- じゅうたんのめくれ
- コード類
- 暗い場所での移動
- 階段の上り下り
加齢に伴う視力低下や筋力低下、バランス能力の低下も、つまずきや転倒の一因となります。
「たかが捻挫」と軽く考えて適切な治療を受けずに放置してしまうと、さまざまな問題が起こる可能性があります。
深刻なのは、とくに足首や膝の捻挫を放置し、関節が不安定な状態で長期間過ごすと、関節軟骨に異常な負担がかかり続け、軟骨がすり減って関節が変形してしまう「変形性関節症」に進行するリスクが高まることです。
これは、関節の痛みや動きの制限をさらに悪化させ、日常生活に大きな支障をきたす原因となります。また、捻挫をした際に、小さな骨のかけらが剥がれてしまう「剥離骨折(はくりこっせつ)」や、関節の軟骨損傷、神経の損傷などを伴う可能性もあります。
捻挫の診断 – 医師は何を調べる?
整形外科では、捻挫の診断と重症度の判断のために以下のような検査をします。
- 問診:いつ、どこで、どのようにしてケガをしたか
- 視診・触診:腫れや熱感はないか
- 画像検査:関節の状態は悪くなっていないか
現在の症状、過去のケガの経験、持病や普段飲んでいるお薬についてなどを詳しく伺います。糖尿病や血行障害などの持病がある場合や、血液をサラサラにする薬を飲んでいる場合は、治療方針に影響することがあるため、必ず医師に伝えてください。
次に、医師がケガをした関節の状態を目で見て確認する視診で、腫れや内出血の範囲、変形の有無などを観察します。続いて触診や徒手検査では、ケガをした部分やその周辺を指で押したり、関節をゆっくりと動かしたりして、痛みの場所や程度、関節の不安定性(グラグラ感)などを調べます。
靭帯が損傷していると、特定の場所に強い痛み(圧痛)があったり、関節が異常に動いたりすることがあります。
画像検査としては、捻挫そのものはレントゲンには写りませんが、剥離骨折など骨の異常がないかを除外診断するために重要です。
特定の方向に力を加えながらレントゲン撮影(ストレス撮影)を行い、関節の不安定性を評価することもあります。超音波(エコー)検査は、超音波を使って、靭帯や腱、軟骨などの柔らかい組織の状態をリアルタイムで観察できる検査で、レントゲンでは見えない靭帯の断裂や炎症の程度、内出血の様子などを評価するのに役立ち、体への負担が少なく手軽に行えます。さらに詳細な情報が必要な場合はMRI(エムアールアイ)検査が行われます。
とくに、重症の捻挫が疑われる場合や、手術を検討する場合などに非常に有用です。これらの問診、診察、画像検査の結果を総合的に判断し、捻挫の診断と重症度を決定し、最適な治療方針を立てていきます。
捻挫の治療 – 早く治して、再発を防ぐために
捻挫の治療の基本は、損傷した靭帯にかかる負担を減らし、組織の修復を促すことです。治療法は、捻挫の重症度や患者さんの年齢、活動レベル、生活スタイルなどを考慮して選択されます。
ケガをした直後には、炎症や腫れを最小限に抑えるために、いわゆる「RICE(ライス)処置」を行うことが推奨されます。具体的には以下の4つの処置からなります。
- R (Rest:安静)
- I (Ice:冷却)
- C (Compression:圧迫)
- E (Elevation:挙上)
多くの捻挫は、手術をしない保存的治療で改善が期待できます。この治療法には、損傷した靭帯を保護し安静を保つためのサポーターやテーピング、ギプスシーネなどによる固定を行う場合があります。
また、痛みや炎症を和らげるための消炎鎮痛薬の飲み薬や貼り薬(湿布)、塗り薬といった薬物療法や温熱療法や寒冷療法、電気治療などで痛みや腫れの軽減、組織の修復を促す物理療法が含まれます。
そして、捻挫の治療においてリハビリテーションは非常に重要です。固定期間が終了したら、医師や理学療法士の指導のもと、関節の動きを回復させるための運動(可動域訓練)、筋力を取り戻すための運動(筋力増強訓練)、バランス感覚を養うための運動(バランストレーニング)などを段階的に行う場合もあります。
よくあるご質問(Q&A)
Q1:捻挫をしたら、冷やすのと温めるの、どちらが良いですか?
A1:ケガをした直後(急性期)は、炎症を抑えるために冷やす(アイシング)のが基本です。通常、受傷後24~72時間程度は冷やします。その後、炎症が落ち着いてきたら(回復期)、血行を促進して組織の修復を助けるために温める(温熱療法)方が良い場合があります。ただし、状態によって異なるため、自己判断せずに医師や理学療法士の指示に従ってください。
Q2:湿布だけで治りますか?
A2:湿布は痛みや炎症を和らげる効果がありますが、湿布だけで捻挫が完全に治るわけではありません。とくに中等症以上の捻挫では、適切な固定やリハビリテーションが必要です。医師の診断を受け、適切な治療法を選択することが大切です。
Q3:捻挫が治るまで、どのくらいかかりますか?
A3:捻挫の重症度や部位、年齢、治療法などによって異なります。軽症であれば1~2週間程度で日常生活に支障がなくなることもありますが、中等症では数週間~1ヶ月以上、重症の場合や手術をした場合は数ヶ月かかることもあります。ご高齢の方は、回復に時間がかかる傾向があることも考慮しましょう。焦らず、医師の指示に従って治療を続けることが大切です。
まとめ
捻挫は、誰にでも起こりうる身近なケガですが、とくにご高齢の方にとっては、その後の生活の質に影響を与える可能性があります。痛みや腫れがある場合は、自己判断せずに早めに整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。
そして、焦らずに治療と必要なリハビリテーションに取り組み、予防策を心がけることで、いつまでも元気に活動的な日々を送ることを目指しましょう。何かご不安なことや疑問点があれば、遠慮なく医師にご相談ください。 症状
関節に力が加わっておこるケガのうち、骨折や脱臼を除いたもの、つまりX線(レントゲン)で異常がない関節のケガは捻挫という診断になります。
したがって捻挫とはX線でうつらない部分のケガ、ということになります。
具体的には靭帯や腱というような軟部組織といわれるものや、軟骨(骨の表面を覆う関節軟骨、間隙にはさまっているクッションである半月板や関節唇といわれる部分)のケガです。
引用元
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