コラム 2025.10.28 肩が痛くて上がらないのは危険信号かも知れません。

「肩が痛くて上がらない」
「どうすればいいかわからない」
肩の痛みは、肩周辺の筋肉や腱、関節に何らかの異常が生じているサインかもしれません。特に、日常生活や仕事に支障をきたす痛みや可動域の制限がある場合、放置せず早めの対応が必要です。
肩が痛くて上がらない原因や考えられる病気・対処法・受診の目安などを詳しく解説します。
本記事は、セルフケアの限界と病院を受診すべきタイミングも分かる内容です。
適切な行動へ導くきっかけとして、ぜひ最後までお読みください。
肩が痛くて上がらないのは異常
「しばらく休めば治るだろう」
と考えてしまいがちですが、肩に痛みがあり動かせない状態は、決して軽視すべきではありません。
肩は、腕を動かすだけでなく、体を支えバランスを取る上でも重要な役割を担っています。肩の関節が正常に機能していない場合、関節や周辺の筋肉、腱、神経のどこかに炎症や損傷が起きているサインです。
マッサージやストレッチは、症状の緩和に役立ちますが、自己判断で間違ったケアを選ぶと、かえって症状を悪化させるリスクもあります。
自分に合った正しいケアを見つけるためにも、原因を理解しましょう。
肩が上がらない原因
肩が上がらない症状には、さまざまな原因があります。
「急に腕が上がらなくなったけれど、何が起きたのか分からない」
「自分の症状が重大なものか判断できない」
「整形外科に行くべきか迷っている」
といった不安を抱えている方も少なくありません。
肩が上がらなくなる原因について、代表的なものを4つ紹介します。
- 四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)
- 筋肉や腱の損傷(腱板断裂など)
- 石灰沈着性腱板炎や関節リウマチなどの病気
- 神経障害や頚椎(けいつい)に由来する症状
肩の痛みは、放置すると症状が進行するおそれがあり、早期の診断と適切な治療が重要です。以下で症状の中で自分の状態に近い項目がないか確認してみてください。
四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)
肩が上がらない症状の代表例が、いわゆる「四十肩」「五十肩」(肩関節周囲炎)です。
主に40〜50代に多く見られ、加齢に伴う関節や腱の変性が原因で、肩関節の周囲の組織に炎症が起こり、痛みや動かしづらさが生じます。
たとえば、服を着替える際に腕が上がりにくくなったり、腕を伸ばしただけでズキッとした痛みが走ったりします。
四十肩・五十肩は、突然症状が出るケースもあれば、違和感から徐々に動かせなくなるケースもあります。特徴的なのは、安静にしていても痛みが続く「夜間痛」や、髪を結ぶ・エプロンをつけるといった動作が難しくなる「拘縮」です。
これにより、生活の質が大きく下がる人も少なくありません。
放置すると可動域がさらに狭まり、肩がほとんど動かなくなる可能性もあります。ストレッチや物理療法などでのリハビリが効果的な一方で、症状が強い場合は専門的な治療が必要です。
自己判断せず、医師の診察を受けることも選択肢の一つです。
筋・腱の損傷
強い痛みや脱力感で肩が上がらない場合、筋肉や腱が傷つく腱板断裂が起きている可能性があります。
肩の動きを支える「腱板」は、腕を上げる際に重要な役割を果たす筋肉と腱のグループです。腱板がスポーツでの負荷や加齢による摩耗などで損傷・断裂すると、腕を上げる力が失われ、強い痛みが生じます。
一度断裂した腱板は自然に修復することが難しく、放置すれば損傷が進行する恐れがあります。(※1,2)
- 急に肩を動かしたら激痛が走った
- 腕を上げると途中でカクッと力が抜ける
- 寝返りをうつたびにズキズキ痛む
これらの症状が特徴的です。
このように、肩を動かした際の強い痛みや脱力感は、自然治癒が難しい腱板断裂のサインかもしれません。
石灰沈着性腱板炎や関節リウマチなどの病気
肩の痛みは石灰沈着性腱板炎や関節リウマチといった、専門的な治療が必要になる病気が隠れていることがあります。
肩の使いすぎや加齢とは異なり、病気そのものが痛みを引き起こしているためです。石灰沈着性腱板炎は、腱の中に石灰が溜まり、突然耐え難いほどの炎症を起こします。一方、関節リウマチは自己免疫の異常が原因で、放置すれば関節が変形する進行性の病気です。(※3)
もし
「これまでに経験したことのない激痛が突然始まった」
「肩に腫れや熱感があり、痛みが長引いている」
といった症状があれば、石灰沈着性腱板炎や関節リウマチなどの病気のサインかもしれません。
症状の悪化を防ぐためには、いつもと違う症状が出たら迷わず専門医に相談しましょう。
神経障害や頚椎の影響
肩が上がらない原因は、肩そのものではなく神経や首のトラブルの場合もあります。とくに注意すべきなのは、頚椎(首の骨)の変形や椎間板ヘルニア、あるいは神経の圧迫によって引き起こされる症状です。
「肩だけでなく腕や手までしびれる」
「首を動かすと肩の痛みが悪化する」
「力が入りにくく物を落とすことが増えた」
といった悩みがある方は、神経障害が関与している可能性があります。
肩関節の病気とは異なり、首や神経に問題がある場合、放置すると症状が進行し、慢性的なしびれや筋力低下につながる恐れもあります。
診断のためには、X線やMRIなどの画像検査が有効であり、整形外科で適切に評価してもらうことが重要です。リハビリや薬物療法で改善を目指せるケースもありますが、神経圧迫が強い場合には外科的治療が必要になることもあります。
「肩の痛みだけではなくしびれや脱力感がある」場合は、単なる肩の炎症ではなく神経系の異常を示すサインかもしれません。
肩が急に上がらなくなったときの治療法

この章では、肩の動きを取り戻すために整形外科で一般的に行われる治療法を3つ紹介します。
- 肩のリハビリをする
- 市販薬や湿布を使用する
- 注射治療をおこなう
どの方法も症状の原因や程度に応じて選択されます。それぞれの治療法を解説します。
肩のリハビリをする
肩の痛みや可動域の制限がある場合、リハビリテーション(運動療法)が最も基本的な治療法です。
急性期の強い炎症が落ち着いたあとにリハビリをすると、少しずつ関節が動くようになり、柔軟性や筋力の回復が期待できます。
特に四十肩・五十肩では、放置すると関節が固まる「拘縮」や「凍結肩」に進行する恐れがあります。
リハビリでは、肩や肩甲骨の可動域訓練やストレッチ、インナーマッスルのトレーニングなどが行われます。
「動かすと痛いから休めておこう」と思ってしまいがちですが、安静にしすぎると回復が遅れることもあります。自己判断せず専門的なサポートを受けることをおすすめします。
当院ではYouTubeも運営しております。
肩のストレッチと運動の参考にしてみてください。
市販薬や湿布を使用する
肩が痛くて上がらないときに手軽に試せる有効な手段として、市販薬や湿布の使用が挙げられます。市販薬や湿布には鎮痛成分が含まれており、炎症や強い痛みを一時的に和らげる効果が期待できるためです。
消炎鎮痛成分(NSAIDs)を含む湿布薬や塗り薬、内服薬が使われます。冷却タイプの湿布は急性の痛みに、温感タイプは慢性的なこわばりに効果的です。
ただし、市販薬や湿布はあくまで「対症療法」であり、根本的な原因を解決するものではありません。痛みが続く場合や症状が繰り返す場合は、整形外科での診断を検討しましょう。
注射治療をおこなう
肩の痛みによって日常生活に支障が出ている場合、注射治療を行う場合があります。注射治療は、ステロイド薬やヒアルロン酸を関節内に直接投与することで、炎症や腫れを抑え、短期間で痛みを和らげる効果が期待できます。(※4)
特に、四十肩や石灰沈着性腱板炎のように、強い炎症で肩を動かすことすら難しいケースで検討されます。注射によって痛みが軽減されると、リハビリテーションにスムーズに取り組めるようになり、肩の可動域回復にもつながります。
ただし、注射治療も一時的な症状緩和を目的とした対症療法であり、根本的な改善にはリハビリや生活習慣の見直しが不可欠です。
強い痛みで肩を動かすことが難しい状況では、注射治療の選択肢も覚えておきましょう。
肩が痛くて上がらないときは整形外科を受診すべき

整形外科は、肩の関節や筋肉、腱、神経といった運動器全般を診る診療科です。肩の痛みや可動域の制限を専門的に診断できます。
この章では以下の内容を紹介します。
- 整形外科で診る疾患と診療内容
- すぐに病院へ行くべき危険なサイン
「肩が痛いのは仕方ない」と我慢するのではなく、専門医に相談することが早期回復への近道です。
整形外科で診る疾患と診療内容
整形外科で見る疾患は多岐にわたります。例えば、以下のような症状が考えられます。
- 四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)
- 腱板損傷
- 石灰沈着性腱板炎
- 関節リウマチ
- 頚椎の障害
診察では、問診や身体所見に加え、レントゲン、MRI、エコー検査などの画像診断が行われ、結果に基づいてリハビリ、薬物療法などの治療が開始されます。整形外科では、単に痛みを取り除くだけでなく、肩の動きを取り戻すことに重点を置いています。
すぐに病院へ行くべき危険なサイン
肩の痛みはよくある不調の一つですが、「時間が経てば治るだろう」と我慢してしまうと、症状が進行することもあるため注意が必要です。
とくに以下のような症状がある場合は、できるだけ早く整形外科を受診すべき危険サインと考えられます。
- 肩以外に、腕や手にまでしびれや脱力感が広がっている
- 夜間も激しい痛みが続き、眠れないほどの状態
- 肩の可動域が急激に狭まり、服の着脱や髪を結ぶ動作すら困難
- 発熱や腫れを伴い、感染症や炎症性疾患の可能性がある
- 転倒や外傷の直後から痛みが強く、骨折や腱断裂の疑いがある
これらのサインを見逃すと、関節の拘縮や神経障害が進行し、治療が長期化するおそれがあります。とくにしびれや力が入らないといった症状は、首や神経の病気が背景にある可能性もあるため、早急な診察が不可欠です。
「単なる肩こりかもしれない」と軽視せず、危険なサインがある場合は迷わず受診してください。早期に適切な治療を受けることで、回復の可能性を大きく高めることができます。
肩の痛み・可動域制限を放置するとどうなる?
肩が痛くて上がらない状態を「そのうち治るだろう」と放置してしまう方は少なくありません。「忙しくて病院に行けない」「我慢すれば日常生活は何とかなる」「年齢的に仕方がない」と考えて放置することが、思わぬリスクを招くのです。
肩の痛みや可動域制限を放置すると、以下のような問題が起こりやすくなります。
- 日常生活に支障が出る
- 症状が慢性化する
- 他の部位に負担がかかり、痛みが広がる
肩は着替えや洗髪、荷物の持ち上げなど、日常のあらゆる動作に関わるため、動きが制限されると生活全体の質が大きく低下します。また、関節が固まって「凍結肩」に進行すれば、回復までに長期間を要することもあります。さらに、肩をかばうことで腰や首など別の部位に痛みが生じることも少なくありません。
次の章では、それぞれのリスクをさらに詳しく解説します。肩の症状を放置することのリスクを理解し、早めの対応を意識してください。
日常生活に支障が出る
肩が痛くて上がらない状態を放置すると、まず現れるのが日常生活の動作への影響です。肩は腕の動きの要であり、髪を結ぶ、シャツを着替える、棚の上の物を取るといった何気ない動作が難しくなります。「ちょっとした動作で痛みが走る」「腕を上げようとすると途中で止まってしまう」「家事や仕事に集中できない」といった悩みは、生活の質を大きく下げてしまうのです。
特に四十肩や五十肩などでは、関節が固まる「拘縮」に進むと、自由に腕を動かせなくなります。
その結果、掃除や料理などの家事が億劫になったり、スポーツや趣味を楽しめなくなったりと、活動範囲がどんどん狭まっていきます。職種によっては、業務に支障をきたし、仕事を休まざるを得ないケースもあります。
「痛みはあるけれど、何とか動かせるから大丈夫」と思っても、徐々に動かせる範囲が制限され、深刻な状態に進行してしまうこともあります。
早めに治療を始めることで、生活に支障を出さずに、改善できる可能性が高まります。
症状の慢性化する
肩の痛みや可動域の制限を放置すると、症状が慢性化するリスクがあります。急性の炎症であれば適切な治療によって改善が期待できますが、放置して時間が経過すると炎症が長引き、関節や腱に慢性的なダメージが残ってしまうのです。
「痛みは弱まったけれど、動かしづらさがずっと続いている」
「肩を使うときに常に違和感がある」
「治ったと思っても再発を繰り返す」
といった悩みを訴える方は少なくありません。これは、炎症が十分に改善しないまま生活を続けた結果、関節が硬くなったり筋肉が衰えたりすることで、慢性症状に移行してしまったケースです。
慢性化した肩の症状は、治療に長期間を要するだけでなく、完全に元の状態に戻すことが難しい場合もあります。特に四十肩や腱板損傷では、拘縮が進むと関節の可動域が大幅に制限され、日常生活だけでなく仕事や趣味にも長く影響を及ぼします。
「少し痛いけど我慢できるから大丈夫」と考えることが、症状を慢性化させる大きな要因です。違和感や痛みが続く場合は、早めに整形外科を受診し、慢性化を防ぐことが重要です。
他の部位が痛くなる
肩が痛くて上がらない状態を放置すると、やがて他の部位に負担がかかり痛みが広がることがあります。人間の体は全身が連動して動いているため、一部に不具合が生じると自然にかばう動作が増え、別の部位に余計な負担がかかるのです。
「肩が動かないから腰や背中をひねって物を取る」
「反対側の腕を使いすぎて疲労がたまる」
「姿勢が悪くなって首や背中が痛む」
といった状況は典型的な例です。特にデスクワークや家事などで、長時間同じ姿勢を続ける生活をしている場合、肩の不調が原因で首こり・腰痛・背中の張りなどが出やすくなります。
さらに、肩をかばうことでバランスが崩れると、筋肉の偏った使い方によって関節や靭帯に負担が集中し、慢性的な不調へとつながります。その結果、肩だけの問題だったはずが、全身の不快感や疲労感に広がり、生活の質を大きく低下させてしまいます。
「肩のせいで他の場所まで痛くなるなんて思わなかった」という声も少なくありません。肩の不調を軽く見ず、早めに原因を特定し治療を受けることで、全身の健康を守ることができます。
まとめ|肩が痛くて上がらないと感じたら、無理せず早めの受診を
肩が痛くて上がらない状態は、決して「よくあること」で片づけてはいけません。四十肩や腱板損傷、石灰沈着性腱板炎、神経障害などの原因が隠れており、放置すると慢性化や他の部位へ影響がでることもあります。「このまま自然に治るのでは?」「病院に行くほどではないかも」といった迷いが、回復を遅らせる要因につながります。
治療法としては、リハビリや市販薬、湿布、注射などがあり、症状の程度や原因に応じて整形外科で適切に選択されます。特に、強い痛みやしびれ、生活に支障が出る場合は、自己判断せずに、速やかに医師の診察を受けることが重要です。
「肩が痛くて上がらない」というのは、体からの警告信号です。
早期に整形外科を受診すれば、より短期間で回復できる可能性が高まり、安心して日常生活を送れるようになります。我慢するのではなく、「早めに相談してみよう」と行動することが健康を守る第一歩です。
肩の痛みや可動域の制限に悩んでいる方は、無理せず整形外科に相談してみてください。正しい診断と治療を受けることで、快適な生活を取り戻すことができます。
参考文献
- 森石丈二,et al.:腱板断裂の自然経過-MRIを用いて. 肩関節,1996;20(1): 217-219.
- 山中芳; 松本隆志; 飯島謹之助:腱板関節面断裂の検討.肩関節,1993;17(2):325-329.
- 公益社団法人日本整形外科学会HP(石灰沈着性腱板炎症)
- 山口毅 他:ラット腱板完全断裂モデルに対する肩関節内注射の効果の検討.肩関節,2018;38(2):679-982.











